ベビーカーを押して浮気3

 調査を継続しさらに2週間が経とうとしていたが進展はなく、買い物や子供と散歩に出かける動きしか見せない対象者。調査が悪循環に入った。

依頼者も痺れを切らし「調査時間帯の変更」を申し出てきた。正直、これも悪循環だとは思っていたが渋々承諾し調査時間を午後から夕方に変更し再び調査に望んだ。

浮気の頻度が薄い関係なのか?などと内心考え始めた矢先に動きがあった。

15時45分に自宅からベビーカーを押して息子とともに外出する対象者。駅前で夕飯の買い物を済ませ、自宅とは方角が違う駅の北口を進行する。

「他にも買い物があるのか?」気が抜けないパターンだと緊張の糸が張りだし「視野を広く周辺の車輌に警戒」しつつの尾行が続いた。

車輌を廻していた相棒が男性車輌を確認した「パーキングに停まっています。しかも、男性は運転席に乗車したまま精算する様子がないです。」との連絡をうけた。対象者は携帯電話でメールを確認しつつ男性車輌が待つ雑居ビルに囲まれた人気のないパーキングに進んで行く。

 パーキングに駐車中の車輌から男性が下車する。対象者女性とは親子ほどの年の差がある50代後半の中年男性が車輌から下車し自然な笑顔で対象者とベビーカーを後部座席に乗せ男性も後部座席に乗り込んだ。フルスモークで車内の様子がわかりずらく時々2人の頭が寄り添い離れるを繰り返す。

 車中で大人の行為に及んでいる事は間違いないが「証拠」としては不十分な状況だった。

90分間にわたりワゴン車の後部座席を利用した「大人の行為」は終わり男性のみ車輌から下車し、パーキングを精算し対象女性の自宅方向に車輌は進行する。

 経験から「この2人の関係は依頼者との結婚より以前から続いている。」と直感した。車輌に親子を迎えた時の自然な雰囲気は身内や親しい友人そのものに他ならない。その後、自宅に一番近いコンビニで車輌は停車。対象親子は下車しわかれの「バイバイ」手を振り帰宅。

近所の目があるコンビニでも車輌を乗り付ける大胆さも付き合いの長さから出る「自然な行動」に違いなかった。

 その後の浮気調査はスムーズに進行し、「動かぬ証拠」を撮るのに時間はかからなかった。後日の依頼者と奥さんの話し合いで浮気相手の男性は「奥さんが結婚前に勤務していた会社社長」であることがわかった。

ベビーカーを押して浮気2

 依頼人の帰宅がやや遅くなる水曜日と金曜日を調査実施曜日に選定し、午前中より調査を開始。15時の状況をみて調査の継続を判断する取り決めをした。

調査を開始し4日目の午前11時過ぎに対象者がベビーカーに息子を乗せて外出した。普段家事をする格好と大差なく油断していたのが悪かった。

自宅から主要道路に出る途中で公園沿いの物静かな並木道に停車中のワゴン車に乗車し後手を踏んでしまった。間違いなく成人男性の運転車輌だった。

状況的に尾行は継続できずにその日の調査は「男性の影有り」止まりになってしまった。しかし、子供を連れて不倫とは驚かされた。それともう一つ嫌な可能性が頭の中で浮上していた。

 数日後、対象者とベビーカーを乗せて走り去ったワゴン車の保管場所が判明した。日中に様子を伺いに行ったがガレージに車輌がない事から、仕事が不規則か車通勤しているかどちらかだと容易に推測できた。

本来ならば調査対象を男性に代えるところなのだが「対象者との婚姻の継続」と「浮気を止めさせる」ことが前提のため浮気相手の男性を特定した調査は行わなかった。

ベビーカーを押して浮気

 若い既婚者の浮気調査実績が増加している。離婚率が上昇するのも無理無い事かと納得している。近年、実施した主婦の浮気調査で驚いた案件の話をしたい。

埼玉県にお住まいの御主人が依頼人(二十代後半公務員・結婚2年4ヶ月)で「妻の浮気調査を曜日を限定して行いたい。」との依頼内容。

調査のタイミングを間違えない為、調査に踏み切る理由を問うて実施するべきか判断するのだが、依頼人の話を聞き「お引き受けします。」と即答した。一刻も早い浮気調査が必要に迫られた訳は「生後半年の息子さん」がいらっしゃり、出来れば婚姻生活を継続したいと強い意志が依頼人から伝わったからだった。

 若いご夫婦に限って言える事なのだが「出産後の変化」が原因で離婚に発展するケースを数多く見ている。育児が生活環境を変え「母親になった奥さんの内面的変化」も夫婦間に影響をおよぼす。

色々なストレスが夫婦を襲うタイミングでもあり「ストレスから突発的に浮気」に走る時期であったと判断できた。

婚姻生活の継続を望んでいる若い御主人に「やり直す理由」を提示しやすいタイミングでもあるため早急に調査したかった。

アナログ探偵だった頃2

 世間をさわがす大事件だけに警察もピリピリしていた矢先だった。対象者が入ったマンションと警察署にはさまれる形で調査を続行するしか方法がなく感覚的に嫌な予感をもって仕事を続けた。

一時間を経過した時に一人の中年男性がこちらにむかって歩いてくる。後方、側面にも中年男性4名に囲まれた。あっと言う間に車輌のドアをすべて塞がれ職務質問をうけた。

こちらの言い分を信じていない様子。

探偵で仕事中にもかかわらず刑事5名に連れられ署内で取り調べを受ける事になった。

職業柄刑事さんと話す機会があったため楽しい談笑の取り調べになって無罪放免で警察を出たときにはすでに対象車両は無く、探偵事務所の所長に大目玉をくらってしまった。

映画や小説のような場面は過去の記憶にあるが警察官の立ち回りの用意周到さが未だに忘れられない鮮烈な状況だった。

 

 

アナログ探偵だったころ

 秋が近づくと思い出す。まだ、私が20代の若造で先輩探偵の足を引っ張っていた頃。毎日のように調査現場を数軒はしごしたりと多忙な日々を送っていた。早朝から深夜まで仕事で、寝る以外の時間は尾行尾行尾行・・・・(疲れて帰宅できず車中泊もざらにあった)

そんな秋の日曜日、千葉県某所の浮気調査を一人で行っていた。当時は機材もアナログで広域無線だけがデジタルだったと記憶している。その日の調査も終盤にさしかかったところで対象者が車輌で警察署裏に在するマンションに入った。当時としては新しいオーロックで対象者がどの部屋に入ったかつきとめられなかった。

警察署は地下鉄サリン事件以降警戒が厳しく警備の警官が立哨するようになった。